Story

episode 34

「やばい!」

隣の席で鞄をごそごそやっていた彼が大きな声を上げた。

中間テストの最終日。今日の午前中でやっとテストから解放される。

「どうしたの?」
「筆箱を忘れて来た。夜中の3時頃まで真剣に勉強してたんだけど、今朝遅刻しそうになって慌てて家を飛び出して来たから」
「せっかく勉強しても、鉛筆無しじゃダメじゃん。しょうがない、私のを貸してあげるね」

そう言うと彼女は自分の筆箱から鉛筆を2本と、小ぶりの消しゴムを彼に渡した。

「サンキュー。あれぇ、この鉛筆変わってるなぁ」
受け取った鉛筆を見ながら彼が言った。
「お正月に初詣に行った時、神社で売ってた学業成就の鉛筆よ。この鉛筆ならテストもバッチリ」
「へぇ、何か満点取れそうな気がして来た」

彼の成績はお世辞にも良いとは言えない。いつも彼女より10点は少ない。

「ご利益があると良いね!」
「おう、お前より点が良かったりしたら、何か悪いなぁ」
「神社にお礼に行かなくちゃね」
「うん。でもその前に今日テストが終わったら、何か食いにいこうぜ。鉛筆のお礼におごるからさ」
「本当? 何食べても良いの?」
「何か食う気満々だなぁ。何たらパフェくらいにしといてくれよ、俺の財布も寂しいから」
「うん、分かった」
「来週の日曜になればバイト代が入るから、少しは余裕ができるんだけどな」
「じゃあさぁ、テストの合計点が私より良かったらごちそうしてくれる?」
「おう、でも、まずはその神社にお礼してからだな」
「そうね」
「お前の方が良かったらどうするよ?」
「どうしようかなぁ?」

ニコニコしながら少し首を傾げて考えていると、始業のチャイムとともに、先生がテスト用紙を抱えて教室に入って来た。

「ようし、いっちょう片付けてやるとするか」

そう言う彼の隣で、視線を前に戻し、真直ぐに座り直した彼女の口元に、また笑みがこぼれた。

Created: 2007-05-19 05:03 Copyright © 2007 Setsu. All rights reserved.
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