Story

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肩をたたかれて

彼は振り返った。春先の午後6時30分、彼は地下鉄に乗っていた。

そこには彼女がいた。

小学校5,6年生の時の同級生で、中学から私立に進んだから、会うのは8年ぶりだろうか?
彼がまだ食事を済ませていないのを知ると、彼女は一緒に飲みに行かないかと彼を誘った。
関内で地下鉄を降り、二人並んで、馬車道側に100m位行った所にある店に向かった。
そこには、彼女のボトルがキープしてあるという。
彼女お薦めの美味しそうなつまみを選んでもらい、再会に乾杯してウイスキーを飲み始めた。

彼女も大学に通っているらしいので、校名を聞いてみて驚いた。
女子大としては日本のトップと誰もが認める所だ。
小学校の時からの夢だった学校の先生になるべく、猛勉強してきたのだと言う。
かろうじて大学には入ったものの、将来の事など何も考えていない彼とはえらい違いだ。

飲み進むうちに彼女は、ごく最近、つきあっていた男に振られた事を打ち明けた。
彼もその頃にはかなり酔いが回ってきていたのか、その男の事を罵り始めた。
「こんな良い女を振るなんて、バカじゃないの!」
彼女も調子に乗って、彼のウイスキーを煽らせ、次々に水割りを作った。

二人でボトル2本を空にした頃、その店を出ることにした。
支払を済ませ外に出ようとする彼に、彼女はバッグを預け、
「トイレに寄るから先に出ていて」
と言った。

彼は一人表通りに出て店の看板にもたれ、彼女を待った。

その看板には「どん底」と店名が大書してあった。

Created: 2005-01-26 08:26 Copyright © 2005 Setsu. All rights reserved.
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