Story

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視聴覚

教室を出た二人は、並んで階段を降りていた。彼は文化祭に誘われ、昼前から彼女の高校に来ていた。

「最後に出た女性二人組は、かなり良かった」
と彼が言うと、
「休みの日には、たまに伊勢佐木町で路上ライブをやっているみたい」
と彼女が続けた。
「ボーカルもうまいけれど、ハモを付けている子のセンスが良い」

彼の方を見ながら階段を降りていた彼女は、最後の1段を踏み外した。彼は彼女の手を取って支えようとしたが、バランスを崩して二人で倒れてしまった。彼女を支えきれなかったものの、彼は自分の腕を彼女の頭の下に差し込むことだけはできた。

人目を気にして真っ赤になり座り込んでいる彼女の手を、先に立ち上がった彼が引き上げた。
「腹が減ったから外に食べに行こうか?」
昼食に焼きそばしか食べていなかった彼は、きまり悪そうに自分の服をパタパタ叩いてる彼女にそう言った。彼女は小さく頷いて、彼について行った。校門を出て左に折れ、200m位進んだ所にあるデニーズに、二人は入った。

早めの夕食を済ませた頃には、彼女は普段の彼女に戻っていた。
「もう一度学校に戻る?」
と彼が尋ねると、もう彼女のクラスの出し物は終わったので戻る必要がないと言う。
「じゃあ散歩に行こう」

デニーズを出た二人は日曜日で混み合う中華街を抜け、人形の家のからくり時計を見てから山下公園に出た。手すりにもたれて氷川丸と海をしばらく眺めたあと、彼女が言った。
「シーバスに乗ってみない?」
「いいね! 乗ってみるか。乗るなら左側だな」
彼は、嬉しそうにそう答えた。

Created: 2005-01-30 07:56 Copyright © 2005 Setsu. All rights reserved.
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