Story
21時の
時報を待って、彼女は電話をかけた。
2度目の呼び出し音が始まると同時くらいに受話器が上がった。電話に出たのは彼の母親だ。母親同士仲が良かったので、彼女のこともよく知っている。久しぶりと互いに挨拶を交わした後、彼を呼んでくれた。
「今日はどうもありがとう、遅れそうだったのですごく助かった」
そう言った後、彼と電話で話すのはひょっとしたら初めてかもしれない…と彼女は思った。この電話番号も中学の卒業生名簿から探し出したものだ。
面と向かって話すときは次々とギャグを織り交ぜながら軽妙な語り口になる彼だが、電話口の彼は、まるで別人のように言葉少なだ。駅前で別れた時「夕方電話する」と言ったのに遅くなってしまったことを彼女は詫びた。
「うん、そう、とっても楽しかったの。夕方には帰るつもりだったのだけれど、話が弾んで、気がついたら7時を回っていて、また駅まで走っちゃった」
それを聞くと、彼も電話の向こうで笑っていた。
「あのねぇ、お願いがあるの」
ちょっと唐突かなぁと思ったけれど、彼女は思いきって続けた。
「もし良かったら今度私とデートしてくれない?」
ちょっとだけ間を置いてから、彼は了承してくれた。
「うん、ありがとう。じゃあ、今度の日曜日の9時に駅前で。絶対に忘れちゃダメだよ。うん、それじゃお休み」
電話を終え受話器をクレードルに戻した彼女は、自分の机の上に目をやった。
写真立ての中では、まだ小学生の彼と彼女が手をつなぎ、とても嬉しそうに笑っていた。
Created: 2005-09-14 05:08 | Copyright © 2005 Setsu. All rights reserved. |
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