Story
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自転車に乗って
街へ向かっている途中、脇道から突然飛び出してきた女の子とぶつかりそうになり、急ブレーキをかけた。
「ごめんなさい、大丈夫だった?」
声に聞き覚えがあったので、良く見てみると中学の時の同級生だった。
「よぉ、久しぶり。何をそんなに急いでるんだよ?」
「電車に乗り遅れちゃいそうなの。そうだ、駅まで乗せてってくれない?」
そう言い終わる頃には、彼女はもう彼の自転車の後ろに回っていた。バッグを肩にかけ、後輪の車軸の所に付けてある金具に立ち上がり、彼の肩に掴まりながら彼女は言った。
「運転手さん、駅までダッシュでお願いします」
「お客さん、ダッシュだと追加料金になりますけどよろしいですね?」
彼はそう言うと力一杯右足のペダルからこぎ出した。加速に驚いた彼女が掴まっている手に力を込めた。
「うわぁ、凄く速いねぇ!」
「お客さんの体重がもっと軽ければ60km/h位は出るんですけどねぇ」
そう言った彼の頭に彼女がげんこつをお見舞いすると、彼は大袈裟に蛇行して、
「あばれないでしっかり掴まっていてください!」
と言い、さらに真面目な口調になって続けた。
「今日はデートかよ?」
「そうなの、初デートなのに遅れちゃいそうなの」
嬉しそうに言う彼女の言葉を聞くと、彼は無口になってしまった。
駅前に着くと、彼女は自転車から飛び下りた。
「まだ3分前だ。ありがとう、助かった」
「どういたしまして」
と言って、すぐに戻ろうとする彼を彼女が呼び止めた。
「さっきデートって言ったのは嘘。女の子と待ち合わせてるだけ。夕方家に戻ったら電話するね」
振り返りながらそれを聞いていた彼は、小さくうなずいた。
改札口に入る彼女と自転車で駅から遠ざかる彼。二人の顔には微笑みが浮かんでいた。
Created: 2005-07-17 08:05 | Copyright © 2005 Setsu. All rights reserved. |
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