Story
episode 4 |
ショッピングセンターの
屋上駐車場に出るドアが開き、右手にコーヒーが入った紙コップを持った彼女が出てきた。
左手に折れて自分の車まで真直ぐに歩き、右のドアを開け乗り込んだ。センターコンソールにあるカップホルダーにコーヒーを置き、運転席の窓を全開にした。
まだ寒い季節の休日の午後、彼女は待ち合わせの場所に15分程早く着いた。昼食後のコーヒーを飲まなかったことを思い出した彼女は、ショッピングセンターに入りコーヒーの専門店を探し出してテイクアウトのコーヒーを買い、自分の車まで戻ってきた。
4.2リッターV8のエンジンを抱えるボンネットの先端には、丸形のヘッドライトが4つ独立に並んでいる。この車の運転席に収まっている時が一番落ち着く時間なのかもしれないと思いながら、彼女はコーヒーを飲んだ。
ほどなく、屋上駐車場に出るスロープを上ってくる車が見えた。この車が自分の車の後ろに付いた時、バックミラーに映るのだろうかと考えてしまう程車高が低い。同じV8だが3.5リッターのエンジンをミッドシップに持つこの車は2基のターボで加給されている。
駐車場に止まっている彼女の車を見つけ、その車は一度前を通り過ぎてからバックで右隣に並んで止まった。左のウインドーが下がると、サングラスをした彼が一枚の紙を差し出した。2枚のドア越しに無言でそれを受け取った彼女は、彼にコーヒーカップを渡した。カップを受け取り、一口飲んだ彼はカップに印刷された店名を確認するように眺めた。もう一口だけ飲んでから、彼はカップを彼女に返した。
数秒の間見つめ合った後、彼は左手を彼女に差し出した。少しだけ首を傾げながら、彼女も左手を出して握手をした。二人の手が離れるのを合図にしたかのように彼の車が発進し、一度だけブレーキランプを灯した後、スロープに消えていった。
こんな紙切れ一枚で二人の人生が変わってしまうのだろうかと、まだ少し残っているコーヒーを飲みながら、彼女は考えた。
Created: 2006-01-15 08:22 | Copyright © 2006 Setsu. All rights reserved. |
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