Story
episode 36 |
「そんなに
離れてなくても良いのにな…」
朝のこの時間、バスを待っているのは二人だけだ。
バス停のポールから数歩だけ離れて立っている彼女と、そこからさらに5mほど距離を置いた所で、バッグを置き、両手をポケットに突っ込んでいる彼。
この春から高校に通うようになった二人は、毎朝決まってこの時間のバスに乗る。毎日顔を合わせているのに、3ヶ月経った今でも一度も話をしたことが無い。
バスの音に気がついて右を向いた彼女の視線の片隅に、眠そうな彼がいる。バッグを持ち上げて肩に掛け、こちらに近づいて来た。バスは少しだけバス停を通り越して止まり、入り口のドアが開いた。
入り口に向かって歩き始めた彼女は、背後から近づいて来る彼の足音を聞きながら心の中で思った。
「バスに乗ったらすぐに振り返って、彼に笑顔で話しかけよう。最初に言うのはやっぱり『おはよう』かな? 2人掛けの席が空いてたら隣に座っちゃおう。変な娘って思われちゃうかな?」
バスのステップに右足を掛け、手すりにつかまって勢いよく乗り込んだ彼女は、既に笑顔だった。
Created: 2007-06-17 08:39 | Copyright © 2007 Setsu. All rights reserved. |
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