Story
episode 3 |
日曜日の
お昼を少し過ぎた頃、二人はターミナル駅近くのファーストフード店にいた。
向かい合って座る窓際の席で、会話を楽しみながら笑顔で食事をしている。二人共既にハンバーガーを食べてしまい、フライドポテトをつまみながらコーヒーを飲み、互いの冗談に声を上げて笑っていた。しばらくそうしているうちに映画の上映開始時間が迫ってきたので、二人は店を出ることにした。
「ごちそうさま」と彼女が言った時には彼は既に立ち上がり、トレーを持って返却場所に向かって歩き始めていた。彼女もすぐに立ち上がり彼の後を追ったが、何か違和感を感じていた。
返却場所のすぐ近くにフロア係の女性がいた。トレーを持って近づいて来る彼に「ありがとうございました」と言うと、彼からトレーを受け取った。彼は無言だった。彼のすぐ後ろを歩く彼女がその女性に「ごちそうさま」と言うと、笑顔が返ってきた。
さらに違和感が大きくなってきた彼女は、彼に続いて店の階段を下りながら、何故なのか考えていた。あと3段で階段が終わる頃、彼女はその理由が分かった。理由が分かってしまうと、どうにも我慢ができなくなってきた。彼に続いて店の自動ドアから出て少し歩いた所で、彼女は立ち止まった。
前を歩いていた彼は、彼女が立ち止まったことに気付き、振り返った。
「私帰る」
彼女の言葉に驚いた彼は「どうしたんだ?」と尋ねた。
「私はどうもしていない。どうかしているのはあなた」
そう言われても何のことだかさっぱり分からず、無言でその場に立ちすくむ彼に彼女は続けた。
「挨拶はすべての基本よ」
益々訳が分からなくなり困った表情になった彼に向かって、彼女は
「さようなら」
と言うと、彼をその場に残し、映画館と反対方向にある駅に向かって歩き始めた。
Created: 2006-01-22 08:09 | Copyright © 2006 Setsu. All rights reserved. |
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