Story
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平日の
午前7時15分。彼は閑静な住宅街を地下鉄の駅に向けて歩いていた。細い裏通りなのでほとんど人が通っていない。彼の足音だけが響いている。もうすぐ高校に入って半年になる彼は、毎日決まってこの時間にこの道を通っていた。
歩いている彼の5m程先、通りの右側にある家の玄関の引き戸が開き、まだ眠そうな顔をした彼女が出てきた。右足の靴をきちんと履いて背筋をまっすぐに伸ばすと、すぐ目の前に彼がいた。
彼女と目が会うと、彼は微笑みながら「おはよう」と言った。突然挨拶された彼女は少しびっくりしたような顔をしたが、すぐにとびきりの笑顔になって「おはよう」と返した。
二人は3月迄同じ中学に通っていた。あまり話す機会は無かったが、小学校も同じだったので、互いに良く知っている。彼女が通う高校は、彼が通う高校への通学路の途中にあるが、今迄行きも帰りも会ったことが無かった。
さらに言葉を続けようと、彼女の唇が動きかけた時、母親が家の中から彼女を呼んだ。
左肩ごしに振り返る途中で彼女の笑顔が消え、半ば怒ったような顔つきになるのを見ながら、彼はそのまま歩いて行った。
Created: 2005-01-28 06:26 | Copyright © 2005 Setsu. All rights reserved. |
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