Story

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DOHC

2気筒のバイクが国道1号線から右折してきた。
そのまま3ブロックほど直進し、左手にある公園の脇にバイクを止めた。
バイクに跨がったまま左足でサイドスタンドを出し、172kgの車重をあずけた。
ステップに立ち上がり、右足を大きく後ろに振り出してバイクを降りた彼は、公園の中の公衆電話に向かって歩いていった。
左手で受話器を上げ、ジーパンのコインポケットから10円玉を1つ取り出して投入し、電話をかけた。
4つ目の呼び出し音が鳴り終わる瞬間に、受話器が上がった。
いつもより少しすました口調の彼女に向かって彼は言った。
「久しぶり」
「先週会ったばかりじゃない」
普段の口調に戻った彼女が答えた。
「今日はとても寒いな」
そう言いながら、彼は右手をブルゾンのポケットに入れた。
ポケットの中には、自動販売機で買ったばかりの缶コーヒーがあった。
横浜から160km程走り続けてきた彼の手には、その缶コーヒーは熱い位だった。
「窓から公園の方を見てごらん」
彼が言った。
「えっ?」
驚いた彼女は、受話器を置いて窓際に歩み寄り、右手に見える公園を見た。
2階の窓からは、ブルーのバイクと公衆電話の前で手を振る彼の姿が見えた。
「バイクで来たの?」
電話に戻った彼女は続けた。
「今すぐ行くから待ってて」
彼女が受話器を置いたのに続けて彼も受話器を戻し、傍らのベンチに座って缶コーヒーを開けた。
缶コーヒーを飲み、両手をあたためながら、彼女が近付いてくるのをじっと見ていた。

Created: 2005-01-07 06:20 Copyright © 2005 Setsu. All rights reserved.
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